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【必読!】<SlowP>を用いることの教育的意義

更新日:2022年12月8日



<SlowP>について、発達心理学、教育心理学、乳幼児期の認知発達や発達障がい児とその家族への支援などの研究をされている、広島の比治山大学短期大学部 幼児教育科 松島 暢志先生に、イベント中に<SlowP>で遊んでいるお子さんの様子をご覧いただき、以下のようなご考察をいただきました。 松島 暢志先生のご経歴はこちらをご参照ください。 https://mnobushi.wixsite.com/nobushi-m/about-me ___________________________________________________________________________________________

<SlowP>に関して、 私の専門分野である発達心理学の観点から考えたこと、思ったことをまとめてお伝えします。 まず、<SlowP>の代表商品「Long SlowP」について考えると、他のビー玉を使う玩具と異なる特徴として、大きく身体を動かせる(粗大運動=姿勢を保ったり、バランスをとったり、あるいは身体全体を使って歩いたり走ったり、ジャンプしたりするような運動)というところがあると思います。 「Long SlowP」は2mもの長さがありますので、繰り返し転がすことで必然的に行ったり来たり何度も身体を動かすことになります。またHave Some Fun!さんのお話によると、白熱して汗をかきながら遊ぶ子どもいるとのこと。 次に紹介するのはラットでの研究結果なので、どこまで人間に当てはまるかは慎重にならなければいけませんが、仲間とともに身体を大きく使った(あらっぽい)遊びをしたラットは、成長した際に「柔軟」になるようです(参考文献1)。これは脳のメカニズムも一部特定されており、遊ぶラットはコリン作動性伝達物質(アセチルコリン等)を前頭葉(社会性をつかさどる部分)に向けて分泌することが分かっています。このことより、脳の可塑性が高まり、環境に合わせて変化しやすくなると考えられます。一般的に成長すると脳は柔軟でなくなりますが、ラットは身体を使って遊ぶことで変わる力を維持できました。 子ども時代に遊んだ経験がある人ほど、斬新なアイデアを思いついたり、柔軟であったりするのは、なんとなく経験的に理解はできます。ここで紹介した研究はラットでの結果ですが、今後研究が進んで人間にもこの結果が当てはまれば面白いなと思っています。 もう一つの人気商品「Loop」に関しては、「ビー玉は必ずしも予期した動きをしない」というランダムさを楽しめるところに特徴があるのではないかと考えます。こちらは人間の研究でも確かめられていますが、人間は赤ちゃんの頃から「予期していないもの」に注目し、なぜそれがそうなったかを確かめるようなことをします(参考文献2)。一方の大人になると「自分の予想を裏切るもの」は、無意識で無視します。“見たいものを見よう”とする「確証バイアス」があるために。 「Loop」を使って遊ぶことで、子どもは「なぜこういう動きになるのだろう?」「こうしたら、次はどうなるかな?」 のような、仮説検証的な思考をする習慣を、楽しみながらつけることにつながる可能性があります。 また、ビー玉を使う玩具で大きく特徴的なのが、指先の運動(微細運動)です。これは、「手の巧緻性」という観点から考えることができます。小さな、丸いビー玉をつまむためには指先を上手に使う必要が出てきます。 実はこの手の巧緻性は、運動能力だけの問題ではなく、その後の算数能力にも影響をあたえるのではないか、という研究がここ10年ほどなされています。介入研究としても、手の巧緻性を伸ばすトレーニングをすることで、算数の能力を伸ばせる可能性も示唆されつつあります(参考文献3)。とはいえ、この効果が普遍的かと言われると、まだ議論の余地がありますので慎重になる必要があります。

しかし、今後このような研究が進んでいくことで、<SlowP>を用いることの学校教育的意義も見いだせる可能性もあります。 最後に、子どもに関わる人たちは「遊ぶことは発達に良い」となんとなく考えてきましたが、研究では「なぜ遊びが大事なのか、なぜ役に立つのか」は、実はまだ科学的には分かっていない分野です。意外なことではありますが。 これに関して、ロボット工学の研究が参考になるかもしれないとも言われています。 決められたことのみを実行するのではなく、「変化する環境に柔軟に対処できる」ロボットを作る際に、 ロボットに「遊ぶ」機会を与えることが最も効果的だということが示されています(参考文献4)。ここでいう「遊ぶ」とは、ロボットに決められた動きではなく、ランダムにいろいろな動きを試させて、その結果をロボット自身がセルフモニタリングしながら学習を進めるということです。最初はでたらめな動きだったロボットが、次第に上手く動けるようになった、例えば足を一本取り外したとしても歩くことが可能になったことが報告されています(この研究で用いたロボットは二足歩行ロボットではないので)。最初はでたらめでもいい、つまりマニュアル通りの“正しい遊び方”を教えなくてもいいので、子どもに自発的に楽しく、思うように遊んでもらうことが、発達において意味があることなのではないかと個人的には思います。そして子どもの使うおもちゃは、その自由さが保証できるものであれば良いと思います。 参考文献1:Pellis, S. & Pellis, V. (2007). Rough-and-tumble play and the development of the social brain: What do we know, how do we know it, and what do we need to know? Current Directions in Psychological Science, 16 (2), 95-98. 参考文献2 :Stahl, A. & Feigenson, L. (2015). Observing the unexpected enhances infants’ learning and exploration. Sciense, 348 (6230), 91-94. 全文:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5861377/ 参考文献3 :Asakawa, A., Murakami, T., & Sugimura, S. (2019). Effect of fine motor skills training on arithmetical ability in children. European Journal of Developmental Psychology, 16, 290-301. 参考文献4 : Bongard, J, Zykov, V. & Lipson, H. (2006). Resilient Machines Through Continuous Self-Modeling. Science 314 (1118), 1118-1121. 全文(PDF):https://www.science.org/doi/10.1126/science.1133687

 ■■■ 比治山大学短期大学部 幼児教育科   ■■■ 松島 暢志 (MATSUSHIMA Nobushi)  





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