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【必読!】<SlowP>と子どもの脳の発達

更新日:2023年12月19日


今回は、「脳から考える子育て」をテーマに親子レッスンやセミナーを行なっている<おやとこラボ>代表の大川ひさこ氏に<SlowP>を考察していただきました。



必見です! 

 ↓ 

『子どもの脳の発達にとって大切なことと<SlowP>の価値』






<以下、全文、大川氏より>

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キーワードは『目と手の協応』

小さなガラス玉を指でつまんで、溝に合わせて転がす──。 難しくも何ともないシンプルな遊びに見えますが、脳の中では将来の『器用さ』にも関係するとても大切な制御が行われていることをご存知でしょうか?


『目と手の協応』(めと/ての/きょうおう)


器用に手を操って道具を使えるのは、私たちヒトの特徴の一つ。 例えばビー玉のような小さくツルツルした球体をつまんで、転がしたいところに持っていき、場所と位置を合わせて手を離す動作がスムーズにできるのも、ヒトが獲得した高度な脳の働きのおかげです。 そして、手を器用に使うときに重要な役目を担っているのが目です。 子ども達が『ビー玉をつまむ』とき、脳の中では視覚と筋肉への刺激を含めた絶妙な情報伝達が休みなく行われています。

・ビー玉がどこにあるか把握

・どの方向にどれくらいの距離と速さで腕を伸ばすか予測

・実際に腕を伸ばしながら、距離と速さを微調整

・ビー玉の大きさに合わせて手や指を開く

・ビー玉に手指が触ったことを感知して、腕を伸ばす動きを止める

・開いた手や指をビー玉に合わせてさらに調節 ・指でつまめたら腕を引き寄せる ・転がしたい場所を見る ・つまんだ指先から転がしたい場所までの位置関係を予測

・転がしたい場所にアプローチできる位置まで歩く、立ち上がる、体を傾けるなど『自分の位置』を変える方法を選択 ......


などなど、数え切れないほどの情報伝達が行われています。

休みなく『手に関する体性感覚』と『視覚情報』を統合し続けている脳。 それが私達大人には『子ども達が楽しく遊んでいる姿』として見えているのです。

しかも腕や手、指を自由に動かせる力、つまり『器用さ』は子ども達が学校で学習活動を行うときにも重要な役目を果たします。


例えばこんな場面です。

・姿勢を制御する ・感覚と認知(知識の獲得) ・興味や関心


腕や手、指の器用さはこれほど広く影響するんですね。

器用であれば、思い通りに手や道具を操作できますから『集中』も続くでしょう。 集中が⻑続きすれば、課題の達成しやすくなりますから「もっと」と『意欲』も湧くでしょう。 意欲があれば様々なチャレンジするでしょうから、経験も豊富になるはずです。

一つ一つの役割は小さく見えても、たくさんのギアや部品が連動して大きな能力を発揮する──まるで、高性能な精密機械のようですね。

経験と理解がその人の学習・課題クリアを助けてくれるのは、周知の事実。

幼い時代に楽しく手を使って遊べば遊ぶほど、未来の助けになると思うと、今夢中で遊んでいる姿が力強く見えてきます


目はいつ発達するの?

<スキャモンの発育曲線>

・目の発達=神経系の発達 ・視力は眼球の機能と脳の情報処理

 ※どちらが欠けても『見える』ようにならない

・20歳を100%とした時に、神経系の90%は6歳くらいまでに完成。同時期全身型発育(一般系)は40%程

 →身体的発達よりも神経系の発達の方が早い。 ・ピントを合わせるのも練習


身の回りに「見たい」と思えるものがあって、それにピントを合わせ、目で追う経験が視力を発達させていきます。


『器用さ』って具体的にどういうこと?


「〜をしたい」という動作があったときに、必要な脳と身体両方の動きがよくコントロールされていて、『一連の動きとして順序立てて行える』と、私達は「器用だ」と言います

例えば『まず○をして、その情報に合わせて△をしはじめて、うまくいっているかどうか何度もチェックと微調整をしながら□をする』という、一連の流れがスムーズにできること。 こういった運動行動が組織的にできると、無駄なく目的を達する『器用な動き』になります。 関係する神経や身体各部の器官が協調して動けること──『知覚─運動学習』と呼ばれる方法です。


小さい頃から『手と目を協調させて』『楽しく』『集中して』遊ぶ経験をたくさんしてほしい。

子育てと脳の関係に興味を持って研究している私には、子ども達が夢中で遊ぶビー玉転がし<SlowP>がとても魅力的です。


ビー玉をつまんで転がす。このシンプルな遊びには奥深い意味があります(0歳)

誤飲が心配なお子さんには、保護者の方が一緒になって遊んであげてください。

真剣な眼差しでビー玉の行方を。自然と集中力が生まれる(2歳)

3本指でつまむのも脳への良い刺激が(6歳)

さらに、補足(これも必読です!)


【子どもの発達にとって大切なこと】

心配なこと

「ケンケンやスキップが年齢相応にできない、5歳児でも箸がうまく使えない、手先が不器用で着脱に時間がかかる──」近年、子どもたちの不器用さが指摘されています。

「特に手や指を使う『器用さ』や『バランス能力』の低下が目立つ」という子どもの発達研究者の調査結果は、保育・教育の現場でも実感されています。

現代の子どもは20年前の子どもに比べて発達全般が遅くなってきているのです。

なぜ『手先の器用さ・体の使い方全般』の発達が遅れているでしょうか?

研究者たちは「子どもたちの生活習慣や生活環境の変化に影響されていることは否定できない」と心配しています。

つまり『手先を使って細かなものを操作する・身の回りに工夫しながらダイナミックに体を動かすといった機会が減っている』ということです。



『器用さ』とはどういうこと?

別々の動作をひとつにまとめる『協調運動』がうまくできることです。

縄跳びは縄を回しながらタイミング良く跳ぶという協調運動。ボタンをかけたり、ハサミを使ったりといった手先の操作も協調運動のひとつです。

運動とは、生活全般に関わるもの。スポーツの意味だけではありません。

協調運動がうまくできる『器用さ』には『姿勢調節』や『目と手の協応』など、さまざまな要因が関わるとされています。

特に重要なポイントとして、器用さは『心の発達』にも関係することを指摘したいと思います。

思い通りに手や体を使えると「できる」ことが増えます。すると自信がついて「自分はできるはず」という意欲を育みますから、チャレンジ精神も高まるでしょう。

何かが「できるようになる」のは最初のチャレンジから始まります。

つまり生活の中で『できる』が増えていくサイクルに乗るのです。

こうして経験の質・量がアップすれば、育っていく中で受け取れる『良質な経験や刺激の量』も増えます。

『器用さ』は意欲や自己肯定感、ひいては知性にも関わる力なのです。

細やかな手指の操作、体をダイナミックに使う習慣は乳幼児期からの経験が大きく関わっていることを私たち大人は知っておく必要があります。


『目と手の協応』とは?

『見た』ものに対して自分の『手や指』を『思い通りに動かす』ことができること。

それは工作をしたり文字を書いたり、図や絵を描くことにつながります。

遊び場面だけでなく、学童期以降の学習や学校生活とも密接に関係する力です。

視覚から得られる情報量は全体の 83%を占めるといわれており、目は人間が生活する上で特に重要な感覚器なのです。


例えば目の能力にはいろんな『見る』があります。

・『両眼を素早く滑らかに動かす』

・『両眼を使ってしっかりものを見る』

・『近くのものや遠くのものに素早くしっかり焦点を合わせる』

・『形を的確にとらえる』

こういった見る力は、学習や運動全般の基礎になります。

本を読むときの目の動き。

縦でも横でも、文字列を滑らかに追えたらスラスラ読めますし、行が変わった時に確実に続きの行にピントを合わせることができます。

学校の授業でも目は休みなく動いています。

遠くの黒板に書かれた文字を手元のノートに写すとき、遠近どちらでも目的の場所に目を動かしピントを合わせる必要があるのです。

サッカーや野球・テニスなど、スポーツでも。

動くものに素早く視線やピントを合わせ、適切に自分の体を反応させることができれば優秀なスポーツ選手になれる可能性も高まるでしょう。

目の能力は、あらゆる運動のパフォーマンスに影響します。

さらに、芸術作品を観るときも自分で造形するときも、目からの情報処理がうまくいけば、より高度な技術を探究していけるでしょう。

感性を磨くという意味でも『見ること』は力を発揮するのです。

私たちは意識して「目を使おう」「指先の力加減を練習しよう」とはしていません。

無意識に行われる『目と手の協応』は、脳の高度な情報処理能力のおかげです。

「見る」と「動く」という能力のつながりは、生まれたばかりの赤ちゃんにはまだありません。

成長の過程でじゅうぶんな経験を積むことで、脳の神経発達が鍛えられ発達していきます。

使われない神経回路は切り離し、捨てていく。

これが生活スタイルに合わせて研ぎ澄まされていく『脳神経回路の発達』です。

脳の神経系は生後すぐから数年で急激に発達します。

仮に20歳を脳回路の100%地点と仮定すると、1歳前に60%・生後3年までで80%・6歳で90%・12歳で100%に届く発達を示します。

生後数年の発達にスパートがかかっていることがわかりますね。

その時期を逃さず、良質な環境、経験を準備してあげたいのです。

楽しく夢中になれる遊びや生活の中で目と手の力を自然に育てる機会が望まれます。


『手指の巧緻性』

手や指の役割についても明らかにしておきましょう。

『手指の巧緻性』とは、細かな作業をするときに手や指が思い通りに動かせる器用さのことです。

拡げた片手、5本の指には重要な役割があります。

主に小指側の3本を上手にコントロールできると、鉛筆やお箸など『道具』をしっかり握ったり支えたり固定することができるので安定します。

主に親指側からの3本を思い通りに使えると、小さなものをつまんだり細かく動かしたり、微調整が楽にできます。

5本の指を場面に応じて思い通りに使い分ける能力があること。それが『器用さ』の正体です。


ビー玉転がしで遊んでいる子どもたちの手を見てください。

小さなビー玉をいくつも握って、その中のひとつだけを転がす──など複雑で細やかな手指の使い方も自然にやっているでしょう。

年中さん・年長さんになれば、誰でも自然とそうできるようになるのでしょうか──?

そうとは言えません。

現代の子どもは20年前の子どもに比べ、手先を使う器用さ・全身のバランス能力の発達全般が遅くなってきていると多くの研究者が危機感を発信しています。

生活の中で手を使う遊びの絶対量が減ってしまっているのです。

脳神経の発達の仕組みを考えると明らかなように、経験しないことは上達しません。しかも訓練ではなく、楽しく継続できることが必要なのです。


ハサミや小刀、包丁など刃物を使う。小さく複雑なものを組み立てるなど、昔は子どもだって竹ヒゴを切ったり削ったりして遊んでいましたね。

高価なおもちゃはなくても、手や指を鍛える遊びを自然と楽しんでいたのです。

器用さがもたらすのは道具の操作能力だけではありません。

マス目からはみ出さないように文字を書く。筆算で数字のケタがずれないよう、文字や数字を揃えて書く──学業で必ず必要になる動作も『手指の器用さ』が高ければ正確性も上がります。


手と目の協応・器用さが優れているとなぜいいのでしょうか?

生活面/食事・着替え・道具の扱いなど日常生活がスムーズ

学習面/読み書き・数量図形の認知や描画など基礎的な学習場面に取り組みやすい

もしも学習・生活で苦手なことが多いと……?

学校・日常生活の困難、意欲・自己肯定感の低下、なにごとにも自信が持てなくなる危険性が指摘されています。



手を使った遊びをたのしもう!

小さいころから『小さいものをつまむ・離す』などの『自分の手を楽しくコントロールする遊び』と親しませてあげる機会が大切です。手の機能の基礎ができ、器用さが育ちやすくなります。



まとめ

社会情動スキル(非認知能力・生きる力とも呼ばれる)と『器用さ』『ビー玉遊び』の期待される関係

  • 自信・自己肯定感・自尊心=自分のイメージ通りに手指・体を使えると成功体験が多くなるから

  • 自制心/自信や自己肯定感・自尊心があれば自律(自己制御)もできる。

  • 自己効力感と意欲/成功体験が多くなれば「これもきっとできるだろう」と思えるし行動するから

  • 創造性/単純な遊びほど自分の発想を反映させやすい。「こんなふうにするのはどうかな?」と創造性を発揮して遊べる

  • 集中/似たような動きの中でも工夫しながら遊び続けられる力が育まれる

  • 積極性/人が楽しそうにやっていることを興味深くみて「自分もやってみたい」と思える

  • 複雑なルールがなく、自分の好きな遊び方を広げられるため月齢年齢に縛られず楽しく満足感を得られる



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